「制度は“実装”で変えられる」──アジャイルエナジーX・立岩健二氏が語る“ビットコインの公共的可能性”【後編】

立岩健二氏：

日本には、こういった仕組み――つまり、グリッドと連動して自動的に停止する産業用ビットコインマイナー――はまだ存在していません。

Alexandre Stachtchenko氏：

存在していない、というのはつまり「産業規模でのビットコインマイナーが存在していない」という意味ですね？

立岩健二氏：

はい、そうです。私たちAgile Energy Xが取り組んでいるのは、あくまで「概念実証レベル」であり、産業規模にはまだ至っていません。

ですが、あと数年後、私たちがこうして再び対談する頃には、日本でも「数ギガワット規模のマイニング施設」が稼働している可能性は十分にあります。

Alexandre Stachtchenko氏：

それはまさに、今回の次の話題――つまり「テキサス州の事例」への完璧なつなぎになりますね。

こんにちは！yutaro です。

本日のPro向け「BTCインサイト」は、再エネ×ビットコインの旗手・立岩健二さんのインタビュー動画の最終回【後編】です。

立岩さんは、再生可能エネルギーの地産地消を推進するスタートアップ「アジャイルエナジーX」の代表として、次世代の分散型エネルギー活用に挑んでいます。

このシリーズは、1時間超におよぶボリューム満点なインタビュー動画ですから、前編、中編、後編と3回に分けさせていただいています。

(※今回は後編です、中編は コチラ ）

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Alexandre Stachtchenko氏：

あなたはアメリカ、特にテキサスでも仕事をしていたと話してくれましたね。テキサスでも、ある意味では似たような話があります。もちろん少し状況は異なりますが、スペインで最近起きたことと比較できる点があります。

テキサスにおけるビットコインの物語は、2021年に起きた大規模停電から始まります。これは本当に歴史的な停電で、数十人もの方が亡くなりました。たしか真冬の出来事でした。

そのとき、送電網の運営会社に新たに任命された暫定CEOに与えられた使命は、「グリッドを安定させること」でした。そしてこの使命の中で、安定化の手段を模索する中で、ビットコインがその解決策の一部になりうると気づいたのです。

そして、なぜそれが重要かというと…今は2025年です。私が集めたデータからすると、テキサスではすでに3〜5ギガワット規模のビットコインマイニングが稼働しています。つまり、ほんの数年で産業規模にまで拡大できるのです。

これは本当に産業レベルの準備が整っているということで、多くの場所で産業化されない理由は、主にあなたが言及したような規制や政治の問題であり、経済的には十分に成立するものです。

テキサスは「柔軟なビットコインマイナーによる実験場」だと言えるでしょう。過剰電力を吸収し、グリッドが逼迫すれば即座に停止できる。

さて、あなたのご経験を踏まえ、このテキサスモデルから学べる教訓はあると思いますか？ もちろん、前提としてアメリカの他地域とは異なり、テキサスの電力網は孤立しており、再エネの比率も35%と高い、非常に特殊な状況です。しかし、それでも学ぶべき点はあるかと。

立岩健二氏：

はい。あらためて、私はテキサスのグリッドシステムの専門家ではありませんが、観察したことをお伝えします。

テキサスのERCOTモデルは、良くも悪くも「極端な市場主義モデル」です。たとえば、容量市場（キャパシティ・マーケット）が存在せず、「電力量（MWh）」のみを取引する」という特徴があります。つまり発電事業者は、価格が急騰するタイミングに頼らなければ、発電設備の投資を回収できません。ハイリスク・ハイリターン型のビジネスですね。

このERCOTにおいて、ギガワット級のビットコインマイナーが柔軟に対応できることで、グリッドを安定化できる可能性はあると思います。

ただし、一部の記事や分析で、ERCOTにビットコインマイナーが多すぎることへの懸念も見られました。

というのも、ビットコインマイナーは技術的には電力不足時に停止可能ですが、ERCOTは彼らを「直接的に制御」できません。市場メカニズムやインセンティブに頼る必要があり、自動的に停止させるような直接的コントロールはできないのです。

そのため、市場プレイヤーの意図しない行動や、規制当局が望む動きと実際のインセンティブがズレるケースがありうる。スペインやポルトガルで最近起きたような、グリッド不安定時の意図せぬ動きが生じる可能性があります。

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Alexandre Stachtchenko氏：

つまり、このモデルから学べる点はあるが、それをそのまま容量市場を持つ他国の電力網には適用できない、という理解でよいですか？

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