ビットコインの自己保管ルールは変わったのか?──10万ドル時代のカストディを考える【前編】
ビットコイナー反省会 Ep.118 がYouTubeで公開されました!
>> Don’t trust, verifyの形骸化とビットコインに迫る危機 ビットコイナー反省会 Ep.118
こんにちは!yutaro です。
本日のPro向け「BTCインサイト」では、Stephan Livera Podcastに出演した、Onramp共同創業者兼CEOのMichael Tanguma氏のインタビューを全文翻訳でお届けします。
今回のテーマは、ビットコイン価格がドル建てで6桁に達し、物理的な脅威やAIを悪用した詐欺が増えるなかで、これまでの自己保管の考え方は通用するのか、という問題です。
COLDCARDの脆弱性をきっかけに、Tanguma氏は、単一のハードウェアウォレットにも、単一のカストディアンにも依存しないマルチ機関カストディの必要性を主張します。
一方、Stephan Livera氏は、現実的な保管方法を追求するあまり、ビットコインを特別なものにしている思想や性質を失わないかと問いかけます。
前編では、2012年から変わった自己保管の前提、秘密鍵を銃器にたとえる理由、
そしてAI時代に複数の端末やベンダーを使うだけでは不十分だとするTanguma氏の見方を取り上げます。
(※本日は前編です)
COLDCARDの脆弱性が投げかけた問い
【ステファン・リベラ】
皆さん、こんにちは。Stephan Livera Podcastへようこそ。
本日は、Michael Tangumaに再び出演してもらいます。彼はOnrampのCEO兼共同創業者です。
Michael、また番組へ来てくれてありがとう。
【マイケル・タンガマ】
また出演できてうれしいです。
Stephan、あなたの声を聞くと、いつも昔を思い出します。当時、ビットコインだけを扱うポッドキャストはほとんどありませんでしたが、あなたの番組はその数少ない1つでした。
特に技術面について、本当に多くのことを学びました。ですから、また出演できてうれしいです。
【ステファン】
こちらこそ。いま話すには、非常にタイムリーなテーマです。
COLDCARDのエントロピーに関する脆弱性は、多くの人にとって壊滅的な出来事でした。当然、それをきっかけに多くの議論が起きています。
あなたは最近、マルチ機関カストディについて積極的に発信しています。
そして、ビットコイン・エコシステム、ビットコイン・ネットワーク、あるいはビットコイン愛好家の集まりと呼ぶべきか、とにかく私たちのコミュニティ全体で自己保管について話し合っています。
極端な意見の一方には、「自己保管は終わった」という主張があります。
もう一方には、「複数ベンダーによるマルチシグを使えばいい」「別のハードウェアウォレットを選べばいい」という主張があります。
まずは、この問題をどう見ているのか、全体像を聞かせてください。
2012年の自己保管は、2026年には通用しない
【マイケル】
私自身、あなた、そして多くのリスナーに共通する中心的な考え方は、インフレや通貨価値の希薄化によって、個人の時間と購買力が奪われることは、最も深刻な問題の1つだということです。
ビットコインは、その問題に初めて別の選択肢を示しました。
正直に言えば、ビットコインを知ることで視野が広がります。
過去30年間、多くの資産を金が上回ってきたことや、価値を評価する経済の基盤を、再びハードアセットへ戻す必要があることにも気づきます。
現在目にしているさまざまな悪影響も、そこから考えることができます。
これを出発点とするなら、私が話すことや、私たちが構築しているものの核心は、「どうすれば誰でも利用できるようになるのか」です。
私はもともと、従来型のテクノロジー業界で働いていました。
その後、協調型カストディの仕組みを構築する仕事に携わり、そこで拡張性に限界があること、そして構造上の制約があることに気づきました。
この話がいま重要なのは、ビットコインの保有量を減らすことや、すべて手放すことを検討している見込み顧客について、少なくとも3人から5人の話を聞いたからです。
私たちには、それがとんでもない話に聞こえます。
あなたの番組を聴いている人や、この業界で長く活動してきた人なら、「船が沈むなら一緒に沈む。ビットコインが駄目なら、ほかに何があるんだ」と考えるでしょう。
しかし、世の中には、比喩的にいえば『ビットコイン・スタンダード』をまだ半分までしか読んでいないような人も大勢います。
彼らはビットコインを気に入り、理解し始めてはいるものの、2021年から価格がほぼ横ばいであることや、トランプ政権誕生後に生じたさまざまな二次的影響を見ています。
そこへ今回のCOLDCARDの事件が起きました。
被害者がCOLDCARDだけを使っていたわけではなかったとしても、「誰もが、これこそ使うべきものだと言っていたではないか」と感じます。
それを解決策として勧めていた人たちもいました。それなら、次はどこへ行けばいいのでしょうか。
私が話したいのは、まさにそこです。もっと広く議論する必要があります。
これまで私たちには、「自分で資産を保管して完全に所有する」か、「第三者のカストディアンへ預ける」かという、2つの選択肢しかありませんでした。
しかし、額面どおりに考えれば、それは不自然です。
ビットコインがそれほど革新的な資産なら、管理方法や保有方法にも、根本的に新しい仕組みがあるはずです。
私はいつも、1990年代のインターネットを思い出します。
たとえば、当時紙で読んでいた『TIME』誌の記事がオンラインへ移ったとき、最初は紙面とまったく同じ見た目でした。
動的な機能は何もなく、紙面をそのまま画面で見ているだけでした。
そこから5年、10年、15年が経ちました。
大きな転換点は、GPSを搭載し、持ち歩けるiPhoneの登場だったと私は考えています。
Uberや位置情報サービスを考えれば分かるように、それによって消費者向けインターネットが大きく発展しました。
つまり、ビットコインもまだ非常に初期の段階にあり、私たちは暗闇の中を歩いているようなものです。
2012年に機能した方法が、価格が6桁となり、AIが普及する2026年にも機能すると期待されています。
しかし、根本的に考えて、それは機能しません。
それなのに、誰もその議論をしていません。いまも「ETFか、ハードウェア端末か」という二択で考えています。
理念を守りながら、現実に対応できるのか
【ステファン】
長くビットコインに関わってきた私たちの多くは、何らかの思想を出発点としていたと思います。
リバタリアニズムやサイファーパンクなどです。
ビットコインと最も親和性が高い思想を挙げるなら、おそらくこの2つでしょう。
しかし、リバタリアンやサイファーパンクであることを理由にビットコインを使い始める人は、もう増えにくくなっているのでしょうか。
これからは、より実用性が重視されるのかもしれません。
私たち自身がそうした思想を持ち続けるとしても、現実的な視点から取り組む必要があります。
あなたも、同じような立場から話しているのだと思います。
ただし、現実に合わせて門戸を広げ、さまざまな立場を受け入れようとするなかで、ビットコインを特別なものにしている何かを失ってしまう恐れはないでしょうか。
それが、現実主義的な見方に対する最大の疑問、あるいは反論だと思います。どう考えますか。
【マイケル】
ビットコイン文化には、根深い誤謬が組み込まれていると思います。
どんな真実や物語も、最初はある地点から始まり、次第に本来の道筋から外れていくものです。
Alex Leishmanが数年前、あるポッドキャストでこう話していました。
「自己保管の方法を誰かに説明してもらわなければならない人は、おそらく自己保管をするべきではない」
今回、COLDCARDを持っていた人のうち、どれほど多くの人が一度もトランザクションを送ったことがなく、端末を実際に使ったこともなかったでしょうか。
ハッキングや資産の喪失以前に、端末を使った経験がなく、資産を移動させることさえできなかった人がいました。
これは、第一原理に基づく論理的な思考が失われた結果を示す、小さな縮図です。
「なぜ、ここへたどり着いたのか」と考える必要があります。
以前から何度も言ってきましたが、全員が自己保管するようになる、あるいは自己保管だけが唯一の方法だと考えること自体が、そもそも非現実的でした。
ただし、その反対側からも説明しておきます。
2012年には、Mt.Goxへ預けるか、自分でハードウェア端末を使うかという選択しかありませんでした。
当時は第三者のカストディアンを信用できなかったため、その考え方は完全に合理的でした。
いま何を議論するとしても、単一障害点の外で資産を管理する方法を探すべきだという点は変わりません。
私は、誰かに「CoinbaseやGeminiへ預ければいい」とは決して言いません。
彼らに突然拒絶されるかもしれません。ハッキングされるかもしれません。
自分のスマートフォンと相手のサーバーの間で、何かが改ざんされるかもしれません。そうなれば資産を失います。
安心して使えるようになるまで購入を待つか、協調型カストディなど、単一障害点を避けられる別の方法を探すよう勧めます。
「Not your keys, not your coins」の前提も変わった
【マイケル】
重要なのは、「Not your keys, not your coins」という認識だけが変わらずに残り、その一方で、ゲームの条件と賭け金は変わったということです。
2012年や2016年にビットコインを始めた人には、この10年ほどの間に、個人的な生活だけでも多くの変化が起きました。
死が現実的な問題になりました。親が年を取り、亡くなることもあります。子どもが生まれた人もいます。
そして資産価値は10倍から100倍になりました。
さらに、ビットコインが広く知られるようになり、物理的な脅威も増えています。
世界中の誰に対しても、「現金や金をすべてダッフルバッグへ入れ、マットレスの下へ置いておけばいい」と勧める人はいません。
ところが、ビットコインでは、それをしても構わないと考えてきました。
少し誇張を含む表現ですが、方向性として、金とビットコインに大きな違いはありません。
確かに、端末を使えば、手のひらに大量のビットコインを載せることができます。
しかし、どちらも無記名資産です。
誰かが自分、あるいはその資産を確保すれば、その人のものになります。
金が金細工商や銀行へ預けられるようになったのには理由があります。
最後に、誤解されていることがもう1つあります。これは今後、私自身が調べたいと思っていることです。
Claudeを使えば、それほど手間をかけずに、世界の金がどれほど中央集権化されているか、概算を出せるでしょう。
その結果を見れば、誰もが驚くと思います。
それでも金は現在も通貨として機能し、国家の準備資産であり続けています。
各国は米国債を手放し、金へ移しています。
【ステファン】
そこは、多くのビットコイナーが反論するところでしょう。
あなた自身も以前なら反論していたと思います。
「金は中央集権化されたからこそ、支配されてしまったのではないか」と。
金にはなかった「資産レイヤーのガバナンス」
【マイケル】
その指摘は大好きです。
先ほどBitcoin Policy Instituteのポッドキャストにも出演しましたが、これは「ビットコインとは何か」「何がビットコインを特別にしているのか」という議論を開き直すときの、非常に重要な論点です。
私は思考実験として、次のように考えます。これを提案しているわけではありません。
もしビットコインの総供給量が2,100万枚ではなく、2,200万枚や1,900万枚だったとしても、ビットコインは機能すると、誰もが率直に認めるでしょう。
数字そのものは恣意的だからです。
さらに、ビットコインにインフレがあったとしても同じです。
私はビットコインへインフレを導入したいわけではありません。
しかし、供給量が年率1%、2%、3%増える設計だったとしても、金は何千年にもわたって通貨として機能し、毎年一定量の新規供給がありました。
したがって、ビットコインも、その貨幣的性質によって通貨として機能し続けられる、という議論は成り立つでしょう。
ビットコインを金と異なるものにしている要素があります。
現在はそう見えていなくても、15年後には明確になるはずです。
15年後の私たちは、自分と家族のすぐそばに置いたLedger、COLDCARD、Trezorへ、これほど大量のビットコインを保管していたことに驚くでしょう。
同じように、何か1つ問題が起きればすべてを失うCoinbaseへ、これほど大量のビットコインを預けていたことにも驚くはずです。
ビットコインが金と異なり、将来も国家の準備資産として存続できる理由は、私が事業を立ち上げた理由でもあります。
それは、資産レイヤーそのものにガバナンスを組み込めることです。
金は失敗しました。
法定通貨を支持する人は、「金は20兆ドルの価値があるのだから失敗していない」と言うでしょう。
しかし、金の現物に対して大量のドル建て請求権が作られていることを考えれば、金は明らかに失敗しました。
ビットコインはテクノロジーであるため、これまで不可能だったガバナンスを資産レイヤーへ組み込めます。
それによって、まったく新しい金融サービスを構築できます。
その出発点がカストディです。カストディは、あらゆる金融サービスの基盤だからです。
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