この数日で業界内ではSECがBinanceとCoinbaseを正式に訴訟したことというで盛り上がっていましたね。
自分はというと先週ちょうど体調を崩して(多分コロった)、数日間はほぼ寝てたり体調が本調子じゃなかったこともあり、何かやってんね、という感じで遠目で見ていました。まずはとりあえず健康第一なので皆さんもお気をつけください。
さて、今回のSECの件は体調が戻った後もコメントはしてないですし、正直特にそこまで興味も気の利いたコメントや解説があるわけでもないですが、リハビリも兼ねてニュースレターでちょっと触れておきます。
今回のSECの動きに何もサプライズはない
まず第一にSECが以前から大部分のCryptoは証券だと認識していたのは明確にわかっていたことで、その中で重要な役割を担っているアメリカの大手取引所が追求されたことは今更騒ぐようなことでもない気はします。Coinbaseに関してはSECから「訴えるぞ」と事前告知みたいなものも確かしてましたしね。
Coinbaseは公式的には「私達のプラットフォームに証券は一つも存在しない!」というスタンスをとってSECに抗議していましたが、200以上の草ッ草なコインを含むCoinbaseの上場銘柄のうち一つも証券が含まれていないという主張は、流石に法律の専門家でもない自分にとっても「おいおいマジでそれで押し通すつもりか…?」と思ってしまうくらいに無茶が過ぎていた気がします。
クリプト推進派、アンチSECの人たちでさえ「Coinbaseに上場しているコインで証券といえるものは一つもない」という主張を真顔では同意できないのではないでしょうか?みんなぶっちゃけわかってますよね?
つまり少し違う言い方をすれば、CoinbaseもBinanceもビジネスで儲けるためにリスクをとって証券と認定される可能性が高いコインを理解しながら上場、販売をしていたのが実際のところです。
Binanceに至っては役員が「俺たちは未登録証券を売ってんだよ!」と他の社員に直球でポロリ発言していたのが証拠として提出されていたようですが(これはちょっとウケた)、Coinbaseだって本気で大部分のコインが証券じゃないと思っているわけではないでしょうし、イノベーションがどうのとかいうのもただの言い訳という正当化でしかないでしょう。全て理解した上でやっていたわけでその点でも自分からの同情はありません。
クリプトイノベーション論は甘え
少し話はずれますが、「SECがクリプトのイノベーションを阻害している」という批判をよく目にしますが、自分はこれは的外れなものだと思っています。
イノベーションであるかと合法であるかはそもそも全く違う軸の話ですし、クリプトがイノベーションであったと仮定しても、それが既存の証券規制に抵触している可能性は全然あるわけで、大部分の「クリプトイノベーション論」は平たく言えば「クリプトはイノベーションなんだから、(俺に対する)罰金や事業閉鎖は不当だ。自分たちは既存の法律に外に存在していて、特別扱いされるべきだ」と言っている一種の甘えみたいなものだと思っています。
もし「Web3」の「イノベーション」は、「分散」と本気で主張しているなら、そもそもSECに訴訟されようが堂々とこれらのプロジェクトは分散化されており、訴訟する対象も無ければ、訴訟されたとしてもやましいことはないし、これは個人の権利の侵害だ、と高い志で断固戦えばいいだけです。
それが何かSECはイノベーションをアメリカの外に追いやるつもりか、など文句を言ったり、大本営を海外に移す準備をしていたり、なんだか全体的な反応や対応がちぐはぐですよね。「Web3ならできる」というか、「Web3なら訴訟ができる」…、訴訟対象が存在してしまっている時点でそもそもあれなんですが。
ビットコインに特化する理由はただの信条やポジトークではない
さて、上記が今回の件に関する自分の老害的な感想ですが、ビットコイン関連のことに特化している人たちは似たような感想の人も多いと思います。
というよりは今回のように「CZがどうの、ゲンスラーがどうの、Coinbaseの弁護士がどうの…」とかそういう一部の個人や組織、社会の中の権威に振り回されたり影響を極力受けたくないから、そういう要素を極力排除したビットコインに新規性を感じたわけですが、みんなは違うのかな、と率直に不思議です。そういう類の話は自分にとっては平穏な日常を破壊するノイズで、できるだけ減らしたいと自分は考えているのですが。
今回の件もまあ何かみんな本当に「〇〇さんが〇〇した」「〇〇庁に〇〇言われました」とかそういう人間関係をベースにした話が本当に好きだし、人が集まって業界が大きくなると、今までの社会になかったコンセプトを大切に育てようというより、結局社会の縮図になってしまうんだな〜、なんと感じてしまいます。社会〜、ですね。
また、上記のような個人の趣向や感性の話ではなく、純粋にビジネス的な判断としても「ビットコインに特化をする」というのはただのポジトークではなく、リーガル的な不確実性やリスクを最小化し、長期やグローバルを見据えて事業を展開していくという一つの戦略や差別化要因でもあるわけです。
アメリカではRiverやCash Appなどビットコインに特化したBitcoin Only Exchageというのがいくつかすでに存在しているわけですが、それらの取引所はまさに今のような状態を避けるためにビットコイン以外を意図的に提供していないわけで、彼らこそ「だから言ったじゃん」と思ってると思います。
ちなみに今まではそういう感じのことを指摘したとしても結局「マキシマリスト」とか「イノベーションを理解できてない」とかラベリングするだけの浅い批判をする人が多かった気がしますが、どちらかというとそういうリスクを軽視して、「分散してるから大丈夫」「自分たちがやっているのはイノベーション」と浅はかに考えていた人たちこそむしろ逆に色々考え直すタイミングなのかもしれません。
日本は何がしたいのか?
そして今回の件でもう一つ思うのが日本はこれからクリプトやWeb3に対してどうするつもりなのか?という疑問です。
今回名指しで証券呼ばわりされたコインで日本でも取引所で上場している銘柄は多くあります。アメリカと日本では法律や証券の捉え方も違うので別にアメリカで証券認定されたから日本でも同様の対応をとるべきだ、とは自分は必ずしも思いませんが、ただ本当にこのままの現状維持でいいんでしょうか?
アメリカで証券認定されているということはつまり少なくとも何かしらの形で「中央の管理主体とみなせるものが存在する」「約束や公約が破られて投資家が損失を被る可能性がある」「発行主体と投資家の情報格差の不利を解消するための情報公開や保護を怠っている」といった性質を帯びていることを意味するはずです。
そして上記のような問題をそのまま引き継いだまま、例えば日本に事業を移転してきた場合、日本はそのままこの海外製疑似証券を販売させ続けて日本人に売ることが本当に何かの国益になるのでしょうか?
世界的にビットコインやクリプト、もしくはCBDCなどに関して政府も本気度が上がっているのは間違いないですが、それは別に日本みたいに全てを有意義なイノベーションと捉えて誘致、歓迎しているわけでは必ずしもなく、表面的には同じに見えても頭のいい国ほどここらへんの詭弁や二面性を上手く使い分けているような気がします。
例えば、アメリカの動きに合わせる形で香港ではクリプトが再解禁されるということで、色々盛り上げようとしている動きが出ています。これを持って、「アメリカがWeb3プロジェクトを海外に追いやる今はその他の国にとってはチャンス!日本も香港やシンガポールのようにそれらのプロジェクトを誘致すべき」というのは理解はできますがかなりナイーブすぎる意見だと思います。
実際は中国は香港に関連企業を誘致しても、中国本土ではトークンを販売させませんし、シンガポールも自国民へのトークン販売は何かしら制限をつけるでしょう。それは上記の疑似証券発行主体からお金を取りつつ、海外の投資家が損を被ったとしても、国内の投資家がカモにされるのを防ぐためです。
ちなみに過去にも同じようなことは多く起きています。例えば、2017年のICOバブル時には大量にイスラエル発のICOプロジェクトが筍のように出てきたのですが、イスラエル政府は当時からイスラエル国内でのトークン販売は禁止していました。要は金をだまし取るなら海外から獲ってくるのは黙認するが、自国民をカモにするのはやめろってことです。頭いいですよね(非イスラエル人としては迷惑ですが…笑)
疑似証券の取締に本気を見せ始めているアメリカに対して、それらのトークンを含めたWeb3を国家戦略にとか言って全体として押そうとしている日本。どっちが最終的に正しかったのか、答え合わせは将来ですが、チャンスだと思って飛びついたら自分たちはただのカモでしかなかった、という展開にならないといいですね。
There is no second best but bitcoin!