Nostrはただの分散SNSを超えたライトニングのキラーユースケースになるポテンシャルがある
DH Magazineを読んでいる人ならおそらく「Nostr」という単語は聞いたことがあると思いますし、何となく分散型のTwitterみたいなものでしょ、と認識している人も多いと思います。
ただこれを読んでいる人の中でも実際に自分で使ってみたことがある人は少ないでしょうし、そもそも正直Nostrって何がそんなにすごいの?と素直に疑問に思っている人も多いでしょう。
というわけで今回の記事では改めてNostrとはどんなもので、どんなユースケースやポテンシャルがあるのか、個人的にNostrについて注目していることについて説明します。
その上でこの次の記事では実際のNostrの使い方や参加方法を紹介しつつ、11月1日に予定されているNostrasiaカンファレンス前に一気に日本人Nostrユーザーを増やす「Nostrチャレンジ」を実行してみようと考えています。
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目次
Nostrとは何?
Nostrは分散SNS以外にも応用できる
ライトニングのマイクロペイメントとNostrの組み合わせの威力
Nostrはライトニング普及の鍵になるのではないか
Nostrとは何?
Nostrの公式サイトによれば、Nostrとは
Nostr is a simple, open protocol that enables global, decentralized, and censorship-resistant social media.
「グローバルで分散化され、検閲耐性のあるソーシャルメディアを可能にするシンプルでオープンなプロトコル」
とのことです。分散SNSを実現するためのデータ通信に関する取り決め、プロトコルですね。
Nostrは通常のWebサービスのようなアカウントパスワード認証ではなく、ビットコインウォレットと同じく公開鍵、秘密鍵暗号が使われています。
Eventと呼ばれるNostr上のデータは上記のような非常にシンプルなJsonオブジェクトの形に沿っており、それぞれのEventを自分のNostrクライアントから署名することで、特定のメッセージを自分が発信したものであることを証明できます。
Nostrには大きくRelay(リレー)とClient(クライアント)という二つの存在があり、クライアントは好きなリレー(サーバ)を選んで、そこに自分の署名付きのイベントを投げることで、同じリレーに接続している他のユーザーは自分のつぶやき(Note)を見れるようになります。
そしてこれがNostrのキモみたいなものですが、このリレーには誰でも運営することができて、ユーザー(クライアント)は一つだけではなく複数のリレーに接続して同じデータ(Event)を複数リレーと共有することができます。
Nostrが分散SNSと呼ばれているのは複数のリレーにデータが冗長化されているためであり、一つのリレーが閉鎖されても別のリレーに接続すればサービスは機能し続けることが出来ます。また、NostrはP2Pプロトコルではなく、リレー同士でデータの同期などが必要ないのもポイントで、そのためシンプルで実用的、という設計思想のようです。
もう一度平たくまとめると、自分の鍵で署名した特定のフォーマットに沿ったデータを、一つのサーバではなく複数のサーバと共有することで、基本的に1企業のサーバ上で管理されているSNSなどより分散性や相互互換性が向上するってことですね。
上記は自分のNostrのざっくりした理解と単純化した説明なので、より正確な説明や補足情報は以下のサイトなどから確認してください。
初心者向けの日本語でのNostr解説サイト
はじめてのNostr
反省会でNostrについて一部動画でも話しています↓
Nostrは分散SNS以外にも応用できる
さて、分散SNSと聞くと、「どうせ上手くいかないでしょ」と思う人も多いと思います。自分もこういう意見はよくわかりますし、過去の分散SNS的な試みは基本的には全て、ネットワーク効果不足でことごとく失敗してきています。
ただ、Nostrを分散SNSという側面だけで捉えているとその本質や可能性を見誤ってしまうかもしれません。
先ほども説明した通り、Nostrは非常にシンプルなプロトコルで、要はテキストや画像などのデータをどのようなフォーマットでサーバとクライアント間でやり取りするか、という取り決めでしかありません。
逆に言えばNostrを使って分散SNS以外の多様なアプリケーションも構築できるのが大きな特徴です。
例えば具体的なユースケースとしてすでにNostr上で以下のようなユースケースが作られ始めています。
認証&ログインシステム(DID)
すでに色々なサービスでNostrのクライアント上の鍵を利用してログインできるようになっています。(これについては技術的課題や欠陥もあるようですが割愛)分散オーダーブック
取引所やECショップなどのマーケットプレイスをNostr上で構築することで、商品情報や入札の価格データなどの相互互換性が上がり、複数のマーケットプレイス(複数のリレー上)で同じ商品の情報を掲載することができるようになります。
こうすることで、一つのサイトが閉鎖されても他のサイトでは同じ商品の取引が可能になり、マーケットプレイスや取引での検閲や閉鎖耐性を向上することが出来ます。評価、レピュテーションシステム
自分のNostrアカウントを介したデータのやり取りや、他者からの評価、売買記録などは、その他のNostrアプリケーション上でも持ち運びやすくなり、サービス間の互換性や連携が簡単になります。分散型の質問フォーム
よく使うことのあるGoogleフォームなどもNostrを使って作ることが出来ます。
他にも同様の例は多く挙げられますが、個人的にはGoogle Formの代用は一番わかりやすく実用性が高そうなので代表して紹介。
このような分散アプリケーションプラットフォームみたいな試みはNostr以前でも多数あったのですが、色々な理由で結局まだ上手く行っていません。
例えば、イーサリアムブロックチェーンもある種分散アプリケーションのプラットフォームとみなせますが、ご存知の通りブロックチェーン構造はスケールが難しく、ユーザーやアプリケーション数が増えていくと、ガス代の高騰やトランザクション詰りなどの問題がすでに起きています。
Nostrはブロックチェーン技術とは直接的には関係ないのですが、不必要なトークンなどを組み込まず、比較的シンプルな設計で必要十分に分散化され、スケール性能もあり、検閲耐性のあるサービスを構築しやすいのが特徴と言えそうです。
ライトニングのマイクロペイメントとNostrの組み合わせの威力
Nostrを使うことで分散SNS以外の多様な分散型のアプリケーションを構築することが出来ると言いましたが、ここからがライトニングも関わってくるある意味最も面白い部分です。
Nostr上のアプリケーションのもう一つの大きな特徴として、ライトニングのマイクロペイメントがデフォルトでシームレスに組み込める点が挙げられます。
Nostr上でライトニングのマイクロペイメントを送受信することを「Zap」と言うのですが、すでにNostrのクライアント上でいいね!ボタンと同じ要領で雷ボタンを押すことで、少額のビットコインをライトニング上で投げ銭できるような仕組みが実装されています。
Nostr上でZapすると、誰からSatsが投げられてきたかも確認することが出来、マイクロペイメントがSNS上でのつながりややり取りを強化するような事例がすでに生まれています。
ここからがさらに重要です。
Nostrにライトニングを組み込むというのは、単純にユーザー同士で投げ銭がしやすくなる、という程度の話ではなく、Nostr上で構築されたアプリケーションはデフォルトでユーザー同士のインタラクションや、データの送受信などを少額のビットコインで取引できる機能を備えていることを意味します。
例えば、上記のGoogle FormのNostr版では、Nostrでログインしてアンケートに答えた報酬として少額のビットコインが自動的に着金する、というようなサービスを簡単に構築できます。
上記は一例ですが、このように複数のサービス間のデータ通信の共通フォーマットとしてNostrが機能し、サービス内、もしくはサービス間での価値の交換にライトニングとビットコインが使われることで、多くのウェブサービスやプロトコルで問題になりがちなインセンティブ設計の不整合の問題を解消したり、ユーザー体験を改善し、マイクロペイメントを組み込んだWebサービスの新しいビジネスモデルを描くことができるようになるのが、Nostrとライトニングの組み合わせの大きなポテンシャルだと自分は考えています。
Nostrが定着した大きな理由の一つが、ライトニングを使ったZapの投げ銭が気軽に出来るようになったことでしたが、今後Nostrがあることでライトニングのアプリケーションの可能性の幅が広がり、今後さらに面白い、もしくは実用的なサービスが生まれる重要な要因になるかもしれません。
Nostrはライトニング普及の鍵になるのではないか
Web3という言葉が一部の人たちに注目されていますが、個人的にはNostrとライトニングの組み合わせこそ分散Web的な話ですし、まだそのポテンシャルの一端が見え始めているだけで、今後この二つが共生的に重要なプロトコルに成長していく可能性は大いにあります。
また、Nostrが出てきたことで、今までビットコインには直接を興味を示さなかった新しい層の開発者の獲得などにつながる可能性があると思います。実はこのような現象はすでに起きており、日本のNostrユーザーや開発者の半分くらいは元々ビットコインにはほとんど興味がなかった人たちが多く、分散SNSの視点でNostrに興味を持ち、そこからライトニングにも入ってくる、というちょっと今までなかった新しい風が吹いている気がします。
というわけでこちらの記事を読んで何となくNostrへの興味が増した人もあると思うので、次の記事では実際にNostrの始め方を紹介しつつ、11月のNostrカンファレンスに向けて、日本人ユーザーで一気にNostrを使って海外コミュニティにアピールをしよう!という企画に挑戦してみようと思います。
是非この機会にこちらのニュースレターを読んでいる読者の人たちもNostrをいじってみてその仕組みや可能性について考えてみてください。