th_satです。
Diamond Hands Magazine、ビットコインを巡るビジネス面・規制面の動向のまとめです。
今回は、「ビットコイナーによって構築された銀行がFedに対して提起している訴訟」について、俯瞰してみました。Custodia Bankのビジネス内容および同行の直面する規制面の制約の両面で整理したものとなっています!
重要リンク集💎🙌
Diamond Hands Wiki (ライトニングやルーティングに関するリソース集)
Lost in Bitcoin(ビットコイン学習リソース集)
DH Magazine Proへの招待
月7ドルでDH Magazine Proに参加して、日本国内のビットコイン普及活動を最前線で楽しみつつ、Diamond Handsの活動を支援しよう!
詳細は以下のPro版の内容紹介記事をご確認ください。
日本国内のビットコイン普及の加速を目指す新しい挑戦 DH Magazine Proの公開と案内
1. Custodia Bankの概要
2020年に前身となるAvantiが創業され、2022年にCustocia Bankとして、新たなデジタルアセット銀行の設立にむけたロードマップが発表され、その後2023年にサービスインした、米国ワイオミング州の銀行です。
Custodiaは、後述するように「ビットコイナーによって構築されたBANK」であることを謳っています(出所)
デジタルアセットのフロンティアを横断しながら、規制の明確化を強化するとともに、取引リスクを最小限に抑えることを求める人々のために設立されました。
制度面では、認可銀行として、米国初の特別目的預金機関(SPDI)の法的および規制上の枠組みのもとに運営されている。
サービス対象は、現在、デジタルアセット企業、FinTech企業、銀行、企業財務担当者、信託、年金基金、スタートアップなどをはじめとした、米国を拠点とする法人クライアントを対象としてサービスを提供しており、個人は対象外となっています。
2. Custodia Bankサービスインまでの経緯
ワイオミング州の制度(出典)
2019年、米ワイオミング州議会がHB74を制定し、特別目的預金機関(SPDI)の設立を認可しました。
米ワイオミング州のSPDIである Custodia は、デジタルアセットの法的所有権がカストディアンではなく顧客に与えられています。具体的には、顧客資産は顧客に属し、機関の他の資産とは法的に分離されています。
前身のAvanti
上記を受けて、2020年2月、米ワイオミング州に新たにクリプト銀行Avanti Bank設立が発表されました。
Caitlin Long氏を創業者とし、年金・ソブリンファンドなど機関投資家からデジタルアセットクラスからのフルサービス銀行へのニーズに応え、デジタルアセット業界むけカストディ・ペイメント・証券サービスを提供する他、Blockstreamがテクノロジーパートナーとなっていました。(出典)
2020年7月、Avantiとしては、プログラマブルなデジタルアセットAvitを銀行として発行した上で、現金同等物として取り扱う構想も明らかにしていました。
前述したBlockstreamを技術パートナーとして協働し、デジタルアセット取引双方が同時にセツルメント可能とすることで、OTCトレードのカウンターパーティリスクを低減することを意図しているとされていました。(出典)
Avanti設立におけるビットコイナーの関与
旧Avanti Bank & Trustの設立には、ビットコイナーのBryan Bishop氏も関与しています。
Bryan Bishop氏は、Bitcoinオプション取引所であるLedgerXにおいて、2014年から2018年までシニアソフトウェアエンジニアを勤めています。
@kanzureとして知られ、Scaling Bitcoinやbtc++などの技術カンファレンスの超絶文字起こしを多く残しています。
Avantiには、共同設立者として、2020年から2022年までCTOとして関与していました。(出典)
Custodia Bankの名で出願された暗号通貨トークンに関する特許において、Bryan Bishop氏は発明者の一人として名を連ねています。(出典)
具体定には、Avanti BankのCTOとしてインタビューを受けており、Bitcoinスケーラビリティ等について答えている動画(2022年4月)も残されています。(出典)
3.Custodia Bankの提供サービス
サービスイン
2022年2月、Avantiが、新たなデジタルアセット銀行の立ち上げまでのカウントダウンとして、新しい社名「Custodia Bank, Inc.」を発表しました。(出典)
2023年夏に、米国の一部の州において、米ドル預金と米国政府系MMFサービスを含む顧客サービスを利用可能になりました。(出典)
Bitcoinカストディ
その後、2023年11月には、ワイオミング州銀行局の承認を得て、受託者・投資顧問・ファンドマネージャー・企業財務担当者などの法人クライアント向けに、Bitcoinカストディプラットフォームが稼動しました。
融資を行わない銀行として、Bitcoinカストディ(カストディプラットフォームは内製)と米ドルサービス(FDIC保険対象外)を1つ屋根の下で統合的に提供し、ユーザーオペレーションを簡素化し、リスクを軽減することができるとしています。(出典)
多くのBitcoinカストディアンが、オムニバス・カストディを提供しており、そのほとんどが信託という法的枠組みを利用しているとされます。
これに対して、Custodiaは分離保管を提供しており、信託会社ではなく銀行であることから、Custodiaが破産した場合でも、クライアントの資産は法的にクライアントのものとなるとしています。(出典)
Custodiaは、オンチェーンでアドレス残高を検証できる分離型カストディモデルを使用しているほか、個々のUTXOを管理できる保護したいUTXOを選択することができる点が特徴となっています。
これは、特に手数料の高い環境や小規模なUTXO(例えば、プールペイアウトの一部としてのマイニング報酬)に役立つとしています。 (出典)
4.連邦準備制度への加入申請と保険加入申請の却下
一方で、Custodiaは、連邦準備制度理事会(FRB)との間で、マスター・アカウント取得を通じた、連邦銀行サービスへのアクセス申請拒否に直面しています。
2023年1月に、米連邦準備理事会(FRB)は、Custodia Bank, Inc.の連邦準備制度への加盟申請却下を発表しました。
Custodiaは、オープン・パブリック・分散型ネットワークでの暗号資産の発行を含む、新規・未検証の暗号活動に従事することを提案していました。(出典)
その後、2023年3月、CustodiaがFederal Reserve Bank of KansasCity(FRBKC)に連邦準備銀行「マスターアカウント」の取得を申請し拒否された件を巡る裁判において、Custodia Bankが敗訴となりました。(出典)
前述したように、米ワイオミング州は、特別目的預金機関(SPDI)を提供している経緯がありますが、これは、「仮想通貨、デジタル証券、デジタル消費者資産などのデジタル資産に焦点を当てる」ために開発し、地元の起業家にこのテクノロジーと金融商品を受け入れるための枠組みを提供するものとされます。
こうした経緯を踏まえ、2024年1月に、米Blockchain Associationは、Custodia の連邦サービスへのアクセスを阻止することは、「地方の権力を奪い、米国人がお金を移動、使用、管理する方法における革新を主導する州の銀行システムの能力を弱めようとするもの」である旨、第三者意見(アミカス・ブリーフ)を提出しています。(出典1, 出典2)
2024年4月には、Custodiaは4月26日、米国銀行システムへの正式加盟とマスターアカウントの開設を拒否した下級審判決を不服として、控訴状を提出しました。(出典)
直近の2024年7月にも、米Blockchain Associationが、連邦準備制度理事会に対するCustodiaの訴訟を支持する旨のアミカス・ブリーフ(第三者意見)を提出しています。
その中では、以下2点を主張されています。(出典)
「デジタルアセット業界の企業を特別扱いし、銀行フレームワークにアクセスできないように強制する正当な理由は無い」
「デジタルアセットが安全性と健全性の問題を引き起こすというFedの主張は、業界関係者が銀行パートナーを見つけるのを困難にする」
Custodiaが敗訴した場合の影響としては、連邦準備制度(Fed)が「安全性と健全性のリスク」を理由にCustodia Bankの申請を却下したことによって、他のデジタルアセット銀行も同様の障壁に直面する可能性が想定されるほか、これにより、伝統的な銀行システムとデジタルアセットの世界を橋渡しする試みが遅れてします可能性があります。
一方、Custodiaがマスターアカウントを開設できると、「マスターアカウントを通じてデジタルアセット取引の決済プロセスを従来の銀行システムと統合したスムーズな資金移動」であったり、「マスターアカウントを活用してビットコインなどのデジタルアセットを担保とした融資サービス」を提供したり、「マスターアカウントを通じてデジタルアセットを対象とした投資ファンドの組成や運用」を行ったり、といった新しいビジネスが可能になることが想定されることから、同行をめぐる動きに注目が集まっています。
様子をみながら、少しずつ発信していければと思いますので、よろしくお願いします!