アメリカの大統領候補は全力ビットコイン推し。日本のWeb3戦略との違いは?
先週は日本でCoinPost主催のWebXカンファレンスが大々的に開催され、「日本の総理大臣がWeb3を推している」というのが海外のクリプトメディアでも注目されていました。日本のWeb3戦略自体はさておき、ビットコインと政治関係の話で言えばアメリカでも最近ちょっと面白い展開が起きています。
それは大統領候補のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏がビットコイン推進を大統領選の重要な公約に掲げており、彼がメインストリームメディアでも注目され始めていることです。
今回はケネディ氏がなぜビットコインに注目しているのか、その意味と示唆、最後に日本とアメリカの違いについてコメントします。ケネディ氏の件は日本の界隈ではまだほとんど注目されていない気がしますが、アメリカの関係者の中では今ホットなトピックですね。
そもそもロバート・ケネディJr.とはどういう人か?
「ケネディ」という名前は日本でも当然誰でも知っていると思いますが、自分もこのロバート・ケネディJrさんがどういう人かはビットコイン関連のニュースを見るまでは全く知りませんでした。
以下が彼に関する簡単な概要です。
ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、1963年に暗殺されたジョン・F ・ケネディ米大統領の甥で、同政権で司法長官を務めたロバート・F・ケネディ氏を父に持つ。
彼は元々環境関連のことを中心に活動する弁護士だった。元々政治には長く興味を持っていたようだが、今まで直接的な活動はなかった。ただし、今年に入り本格的に政治活動を開始。
ケネディ氏はコロナウイルスのワクチンに対する懐疑的な意見を述べていたことでも有名で(いわゆる反ワクチン派)、彼の主張は、主流メディアからは「陰謀論」として批判されることが多かった。他にも良くも悪くも歯に衣着せぬ発言や、少し過激な主張をしているような人でもある。
ただしその一方、最近になりワクチンの有効性や副作用などについて科学的に批判する声も出てきており、彼の主張の正当性が一部見直されている部分もあるよう。
世論調査では、民主党支持の有権者の17%が彼を支持している。これは現職のジョー・バイデン大統領が70%の支持を得ていることと比較すると、政治経験ゼロのケネディ氏は頑張っていると言えそう。
なぜケネディ氏はビットコインが重要だと考えているのか?
さて、自分も元々全然知らなかったこのちょっとエキセントリックなおじさんロバート・ケネディ・Jr.さんですが、元々反ワクチン言説で有名になったようです。
その人が今年に入りビットコイン推進を重要な政策の一つに掲げ、既存の金融政策や政府による自由や個人の権利の侵害を強力に批判し始めたことでアメリカの界隈で注目されるようになりました。
ケネディ氏ほどの知名度と大統領候補になるほどの影響力のある政治家がここまで明確に既存システムを批判し、ビットコインを押し出しているのは新しい展開です。
マイアミで行われたBitcoin Conference 2023の講演で彼は以下のような現状の課題を指摘しています。
政府によるお金のコントロールを通した市民の抑圧
透明性の欠如
コロナなどの緊急時の権力の乱用
通貨供給量の緩和による、富裕層の権益保護と戦費の調達
監視社会と権利の侵害
それに対して彼はビットコインがこれらの問題の解決策になると期待しているようで、以下のようなビットコイン政策を提案しています。
ビットコインの保有や使用、売買の権利の保証
自分で鍵を管理するセルフカストディの権利の保護
ビットコインノードの運用権の保護(ノード運用者にはKYCなどは要求しない)
マイニングに適用される30%のエネルギー税の撤廃
ビットコインの価格上昇によるキャピタルゲインの非課税化による通貨としての利用の促進
米国債の一部(1%程度)をビットコインで裏付ける
それぞれ個人的には技術特性やそれに対する規制の影響をちゃんと考えた上での提案という感じで、少なくともビットコイン関連の提言については全体としては悪くない内容だと個人的にも思います。
特に最近になって追加で発表された米国債の裏付けを一部ではありますが、ビットコインで行うというのはドルとビットコインの関係性の変化、歴史的にゴールドが果たしていた役割を「デジタル・ゴールド」であるビットコインが埋め始めるという点でいよいよか、とちょっと感じる部分もあります。
ちなみに彼の主張は必ずしもその他のコインやブロックチェーン、いわゆるCrypto/Web3を完全否定しているわけではなさそうですが、あくまで通貨や金融政策、環境面などの視点からビットコインが彼の戦略の中心であることは間違いなさそうです。
ケネディ氏は本当に大統領になれるのか?ビットコインへの影響は?
自分はアメリカの政治に詳しいわけではないので、実際彼が大統領になる確率がどれくらい高いかはわかりません。ただ素人的な勘でしかないですが、彼が本当に大統領になる確率はあまり高くないと思っています。
一般的な視点では過激とも捉えられそうなビットコイン政策もさることながら、彼は世間一般では反ワクチン陰謀論者のような感じでアメリカでは認識されているようですし、大衆から支持されないんじゃないかな、と(まあトランプが同じような状況で勝ったりしたこともあるので、正直素人にはわからないですが)
というわけでケネディ氏が掲げるいわゆる「ビットコインをアメリカの国家戦略に」自体は上手く行かないと予想しますが、ただそれでも彼の出現には色々意味や示唆があると思います。
まず仮に選挙で最終的に勝ち残れなかったとしても、今彼は様々なメディアを通して上記のような既存社会システムの問題や欠陥、それに対する解決策としてのビットコインというテーマを強力に発信しています。これはアメリカにおけるビットコインに関する議論の深まり、認知やリテラシーのさらなる向上につながるでしょう。
また、仮に彼が大統領にはなれなかったとしても、ある程度以上健闘したとしたら、これが一つのモデルケースとなって将来的に別の政治家がビットコイン戦略を採用する可能性も出てくると思います。
その点では彼が実際に大統領になる確率は別として、彼の活動はアメリカにおけるビットコインの普及や地位の向上にとって今後重要な役割を果たす可能性があるという点で、ある程度注目すべき価値のあるトピックだとは思います。
日本とアメリカのビットコイン、Web3戦略を比較すると?
最後にアメリカで起きているビットコイン戦略と、日本のWeb3戦略の比較について私見を述べます。
今回紹介したケネディ氏のビットコイン戦略は中々ラディカルですし、最終的には自分は彼が大統領になることもないと予想はしていますが、ただ彼は現状の金融政策や制度的な課題やビットコインについて理解した上で、明確な狙いを持って、自分の言葉できっちり具体的な戦略を説明したり提言しているのが印象的でした。ここらへんはアメリカの政治家の優秀な部分だと改めて思いました。
また、アメリカでは「ビットコインを推すこと」自体が一つの政治戦略になるレベルまでビットコインが普及してるだけでなく、全体的に好意的に認識されているということも理解しておいた方がいいと思いました。
特にLunaやFTX、またBlockFiなどそれらの関連事業が軒並み倒れていった去年の事件の影響やNFTブームの陰りなどもあり、ビットコイン以外のクリプト全般に対する信任が落ちてきている印象を受けますし、それは政治の世界にも表面化してきています。
ただし、ここらへんのトレンドや動きは日本ではなぜか?全く正確に理解されていないです。
特に日本では一般社会からのビットコインの認知や好感度は世界的に見ても最低レベルですし、クリプト業界全般で見ても日本では現状ビットコインというよりNFTなどに対しての注目度の方が高いと思います。ただこの日本の常識こそむしろ世界の非常識に近いかもしれない、という認識は最低限持っていた方がいいでしょう。
日本では今ちょうど「Web3を国家戦略に」ということで一部盛り上がっていますが、率直に言ってしまうと海外のトレンドの表面的な真似をしているだけで、全体的に雰囲気ベースで目的や狙いが不明確なのもすごく気持ち悪さを感じますし、少なくとも今回紹介したケネディ氏の話含めアメリカでされている議論のレベルや具体性などに遠く及んでないと改めて感じてしまいます。
特にアメリカでは既存体制への批判的思考だったり、金融政策、インフレーション、表現の自由、環境問題など本丸の課題にちゃんと切り込んだ上でではどうするか、という類の議論していますが、日本はWeb3が何かすごそうだから盛り上げようという程度の具体性しか現状なく、既存の政策や大企業、金融機関などを否定したり、迷惑かけない範囲で、穏便に既存体制主導で仲良くやっていこうね、という風に少なくとも自分には映ります。
まあ何事も失敗はつきものなので失敗すること自体は問題ないのですが、「なんとなくすごそうだからみんなで頑張ろう。(税金から)お金は出すよ」ではなく、最低でももう少し具体的な狙いや勝負すべき領域やアプローチを明確にし、かつきちんと目標値やKPI、責任の所在を明確化して欲しいものです。
もちろん規制面で日本の議論がその他の国と比べても一部進んでいる部分もあれば、アメリカでは特に今SECによる訴訟関連の話などクリプト全般の規制を強化している中、日本の市場が海外からも注目を一部され始めているのも間違いではないと思うので、中身がまったくないとまでは言えないですし、実際に「本気で頑張っている」人たちもいるのも否定はしないことは一応付け加えておきます。
これを読んでいる人はどう感じますか?最近の日本のWeb3推しは世界的に見ても先進的な事例で、これから日本が世界的に注目されるターンが来ると思いますか?それとも日本もアメリカのようにもっとビットコインを全面的に押し出した方がいいと思いますか?是非コメントなどを残してもらって冷静に議論してもらいたいです。