RGB&Taro ビットコイン上のトークン発行は現状どういうレベルで今後どうなるのか?
「ビットコイン上のトークン発行の概要と可能性 〜Client-Side ValidationモデルとRGB、Taro概観」というレポートをDiamond Handsとして公開しました。
日本語レポートダウンロードリンク
https://docsend.com/view/6i3fvxzgzww5pujd
こちらのレポートは去年から話題に度々上がるRGBやTaroなどのClient-Side Validation型と呼ばれるビットコイン上のトークンプロトコルについて概要を説明し、その仕組みや可能性、解決すべき課題について読みやすいスライド形式でまとめたものです。
メインの著者は個人的にも長く仕事の付き合いがあり、DHコミュニティ内でも色々活動してくれている加藤規新さんです。彼を中心に技術リサーチを行い、自分と議論しながらレポートのフォーマットや中身に落としていった感じです。他にも複数の人から技術や内容に関してフィードバックをもらいました。
特に去年Lightning Labsにより発表されたTaprootを利用したトークンプロトコルのTaroは、ライトニング上でよりスケーラブルで、安価、高速のトークン送金を可能にすることが期待されているプロジェクトであり、発表後メディアやコミュニティ内でもかなり注目されています。
同時に現状としてはまだコンセプトレベルの段階のものが多く、実際ビットコインやライトニング上でのトークン利用はどういう仕組みなのか、既存のものと比べてどのような優位性があるのか、適したユースケースは何か、課題は何なのか、代表的なプロトコルの2つであるRGBとTaroの違いやそれぞれの特徴は何か?など自分たち自身でも疑問に感じている部分が多々ありました。
それらの疑問点についてストーリー立てて他の人にもわかりやすい形でまとめたものがこちらのレポートです。英語ではRGBやTaroに関する資料はいくつかすでに存在していますが、そもそもClient-Side Validationというコンセプトの仕組みや現状のモデルに対する優位性、RGBとTaroの比較、今後の展望と課題の考察、をまとめた資料は今の所世界的にもこちらのレポートのみだと思います。(ちなみに英語版のレポートリンクはこちらです。)
といわけで、具体的な内容については視覚的にわかりやすい図説付きでまとめているので、レポートを直接パラパラ読んで貰ったほうが早いです。ただしせっかくなので以下に特に重要なポイントだけ部分的に紹介しておきます。
以下重要ポイントの一部だけ紹介
まず前提として、現状トークン発行の大多数を占めるイーサリアム型のスマートコントラクトチェーンは「グローバルコンセンサスモデル」に分類することが出来ます。
イーサリアムのガス代高騰などでこのモデルのスケーラビリティの限界について身を持って体験している人も多いと思いますが、他にもノード運用コスト増大による集権化、プライバシーの欠如などの課題もあります。
イーサリアム以外のより安く早い新型のグローバルコンセンサス型のチェーンもありますが、それらは基本的には分散性や安定性などを犠牲にしていることが多く、完璧なソリューションであるとは言えません。
それに対してClient-Side Validation(CSV)型のトークンはオンチェーンへ書き込む情報量や処理を出来るだけ最小化し、クライアント側で検証作業を分離することで、スケーラビリティやプライバシーなどのメリットが得られるだけでなく、ビットコインのブロックチェーン上でもトークン発行やクライアントサイド型のコントラクトの実行を可能にします。
特にビットコイン上でのCSV型のトークン発行は安定性などのメリットだけでなく、世界で最も認知され流通しているビットコインとの親和性が高く、ライトニングネットワークなどに接続することで送金のスピードやコストなどを更に改善できるという優位性があります。
ビットコイン上の金融やコントラクトレイヤーは、その他のブロックチェーンとは少し違う方向性を向いています。
それは、RGBやTaroなどのCSV型のトークン規格だけでなく、他にも多くのオフチェーン/クライアント型のプロトコルが連携し、よりスケーラブルでプライバシーも高いP2P型の金融レイヤーの発展です。トークンだけでなく、DLCなどのP2P契約、他にもアイデンティティ(DID)との連携などすでにそのような事例は少しづつ姿を現し始めています。
その一方で、CSV型のトークンがグローバルコンセンサス型のユースケースを全て置き換えるわけでもないと予想されます。CSV型のスケーラビリティ、プライバシー、検閲耐性などの強みに対して、グローバルコンセンサス型は透明性、流動性の集約やコントラクト同士の連携が特徴であり、それぞれ適したユースケースを見つけ、分化していく可能性があります。
RGBはビットコイン上のCSVトークン規格で最も歴史のあるプロトコルで、プライバシー面での優位性と、トークン発行だけでなく、CSV型のスマートコントラクトの実行が出来るプラットフォームの実現を目指しています。
一方、Taroは比較的トークン送受信やライトニングでの利用にユースケースを絞っている印象で、その分学習コストや普及の面で優位性があると言えそうです。
RGB、Taro共にまだ発展途上であり、不明瞭な点、課題もあります。
RGBはCSV型の柔軟なスマートコントラクト機能が強みの一方で、その実現には多くの新しいコンセプトの組み合わせが必要になり、スコープが大きく複雑化しがちです。
Taroはスコープを絞って実用的なユースを追求する一方で、コントラクト機能が欠けていたり、オンチェーン送金コストがRGBなどと比べて設計上高くなります。結果として、より集権的で実質的なカストディアル型に近いソリューションの利用が多くなってしまうリスクがあると言えそうです。
RGBとTaroそれぞれで目指しているゴールやアプローチが結構違うので、その点では競争関係だけでなく、共存していく未来もありえると思います。
というわけでとりあえずまだの人はまずは日本語のレポート本文を読んで見てください。スライド形式なので読みやすく、背景や概要を効率よく掴むのには最適だと思います。
日本語レポートダウンロードリンク↓
https://docsend.com/view/6i3fvxzgzww5pujd
なお、個人的にはRGBやTaroに期待している部分と、まあなんだかんだビットコイン自体の送金や応用をなんとかする方が先だよね、という気持ち両方あります。その点では別にトークン利用がビットコインにとって最も重要なトレンドとも思いませんが、そこらへんについても一部Appendixなどで関連する反例を出したりしています。