DID(分散アイデンティティ)って結局何が面白いの?ビットコインとどんな関係があるのか?
先日周南公立大学とDiamond Handsで共同で開発するDIDを利用したデジタル学生証システムに関する公式なプレスリリースを出しました。
周南公立大学リリース↓
https://www.shunan-u.ac.jp/news/information/20240228-13942/
Diamond Hands公式リリース↓
また、日本のクリプトメディアでは、CoinPostとあたらしい経済にも記事にして紹介してもらいました。
周南公立大学、分散型デジタル学生証を開発 Web5とビットコイン・ライトニング採用
周南公立大学、Web5採用でDID利用のデジタル学生証の実証へ。Diamond Handsと提携で
https://www.neweconomy.jp/posts/373934
さて、こちらのプレスリリースを読んでくれた人もいると思いますが、結局何のことかいまいちピンと来ていない人も多いんじゃないかと思うので、もう少し砕けた形で DIDに関すること、ビットコインやライトニングの組み合わせの可能性、今回のプロジェクトに期待していることと、今後の課題や懸念点などについても正直に触れておこうと思います。
(山口県行く途中の新幹線からの風景。特に意味はありません笑)
なんでそもそもDID(分散アイデンティティ)のプロジェクトをやっているの?
まずそもそもですが、Diamond Handsはライトニングをメインにしているはずなのに、なぜDIDプロジェクトをやっているのか…?
まあこれも紆余曲折はありましたが、大きな理由の一つが一般に特に日本の企業や大学、市区町村などはまだまだビットコインに関しては及び腰の部分があり、DIDを利用した分散的なデータ管理システムなどの方がとっつきやすいから、というのがあります。
このニュースレターの読者の人たちならすでに知っている通り、日本ではいまだにその他の国と比べて一般市民のビットコインへの印象があまり良くありません。やはり投資や投機、詐欺も含めて危険、みたいな認識が強いようで、それは中々抜けそうにないです。
それに対してDIDは良くも悪くも価格変動などの投機性や反政府的な文化などは皆無で、データプライバシーやセキュリティの向上など、理解しやすい/受け入れやすい、というところだと思います。また、DX化の流れでデジタル化とプライバシーの向上を両立できるDIDベースのシステムは企業や大学から見ても実用的な面があります。
今回のプロジェクトではDIDの中でも特にWeb5という、ビットコインと比較的距離感が近いDIDプロトコルを採用していることもあり、DIDから入って、ビットコインやライトニングにも繋げていく、という狙いがDH側としてもあります。
DIDこそ真面目なWeb3では?
今回DID、特にWeb5を利用したプロジェクトを進めていく判断をしたのは、一般受けの良さだけではありません。
自分は個人的に元々DID関係のことにすごく詳しいわけではありませんが、ただコンセプトとしてDIDは当然重要とは思っていましたし、なんというかこれこそトークンを使った集金スキームなどとは一線を画す真面目なWeb3/分散インターネットの実現に重要な技術だと思っています。
DIDの技術を活用することで、個人情報などを自己主権的な形で自分自身で管理しつつ、第三者に特定のデータの所有や自分の属性の証明ができます。ここら辺はビットコインともかなり考え方が近い部分があります。
例えば、今はGoogleアカウントなどでやることが多い複数のサービスへのログインを自分の秘密鍵でパスワードレスログインできるようにすることで、インターネット上の活動のプライバシーを向上させます。また、DIDはアプリケーション側に個人情報を渡さない形でも機能する分散アプリケーション(データ所有の集中から分散化)を構築するための技術としても活躍します。
日本ではNFTが流行ったタイミングで企業や自治体、自民党までもがこぞってNFTを使ってなんかやろう、みたいなブームが一時期起きましたが、大部分はトークンの売買を嫌がって、NFTの送信や転売不可な、いわゆるSBTというスキームを採用していました。
ただNFTのメリットの大きな部分はまさに転売性、転々流通性的なものであり、それを制限するなら、最初からDIDのような技術を採用する方が本来は筋がいいと思うわけです。
少し言い方を変えれば、日本でWeb3が〜、とか分散インターネットが〜とか言っている話は、ビットコインが担う貨幣や通貨の部分を除けば、本来DIDで大部分事足りる話なんじゃないかと思います。
DIDによるデータの色付けとライトニングとの関係性について
DIDというのはブロックチェーンが関係ない部分の研究や実装も含め実はかなり奥深い、マニアックな世界であり、自分もまだその全貌やポテンシャルは分かりきっていない部分があります。「専門家です」とかいうと怖い人が来そうですし、そういう風に言うつもりも毛頭ありません笑
ただ、何となくその面白さを自分なりに表現するとしたら、それは「データの自己管理と色付け」と言う側面だと思います。
例えば、自分の証明写真のデータを持っているのは自分だけで、かつこのデータは間違いなく自分が保有しているものだと第三者にも簡単に証明できる。またそれだけではなく、自分の所有しているデータや属性の一部を切り出して、それを自分の秘密鍵で色付けし、外部の人に選択的に開示する。そのデータに外部の人や機関のDIDでさらに別の色をつけてもらうことで、データの属性が変化したり、価値がさらに上がっていく…
今までデータというのは基本的には企業などに集中化されていて、かつ同じデータであれば所有権という概念もないですし、無味無臭のコモディティ的なものでした。そこにDIDの概念を取り入れることで、同じデータであってもどのDIDと紐づけられているか、ということでその意味合いや価値なども変わってくる、という感じです。
このようにデータをよりポータブルに、必要に応じて自由に切り取りつつ、証明して色をつけれるようにすることは、今後出てくるであろうデータマーケットにとって非常に重要だと感覚的に思います。
そしてこれは前から言っていることの一つですが、ライトニングのマイクロペイメント機能とデータマーケットというのは非常に相性が良く、データ管理の新しいパラダイムを提供するDIDとライトニングの組み合わせにも間違いなく将来的に大きなポテンシャルがあるのではないかと期待しているわけです。
DIDとライトニングの組み合わせというのは世界的にもまだあまり事例がないですし、今後時間をかけながら少しづつ画期的なユースケースが姿を現していく可能性があると思っています。
大学や自治体、企業のクリプト関連の取り組みに関する課題意識について
というわけで、なんとなくDID結構面白そうだなと思ってくれた人もいると思いますが、DIDに関して、また特に今回のプロジェクトに関する懸念や課題も当然存在します。
(今の時点で書けないことで色々裏で大変だったり、面倒だった裏話的なことも当然少なからずあるのですが、そういう話は少なくとも今は出来ません。機会があればどこかでいつかポロッとそういう話はできるかもしれません)
まず第一に、DIDもWeb5もまだまだ普及や技術の成熟化、ユースケースの増加に時間がかかると想定されることです。日本ではビットコインよりDIDの方が入りやすい、実用的という話もしましたが、Web5などもまだ新しい技術でありその普及や発展に時間がかかると自分も想定しています。
それを承知の上で研究開発、先行事例として挑戦していく、というのが大学などの役割でもあると思うので、実際に学生が使えるレベルのものを目指しつつも、走りながらまだまだ試行錯誤が必要というのが現状の所感です。
もう一つが大学や行政、もしくは大企業など二人三脚で進める難しさと限界、的な部分です。
今回のDiamond Handsと周南公立大学のプロジェクトだけの話ではなく一般論ですが、過去に大学や行政、大企業がやるクリプト関係のプロジェクトは大部分が何の結果も残せず有耶無耶になり失敗しています。これは単純な事実です。
それはプロジェクト引受先の企業の実力不足みたいなところもあると思いますし、企業や大学側が元々過剰な期待をしていて、期待値のマネジメントができなかったり、リスクを避けようとするあまり結果として中途半端な形で失敗してしまう、組織内での意思決定がバラバラ…など色々なパターンがあります。いずれにせよ、経験的にもこういうプロジェクトを成功させるのは実は簡単ではないです。
(逆にうちならなんでも出来ますとか、Web3なら全て解決できます、とかいう輩は信じない方がいいでしょう)
特にDIDの技術の場合は、認証部分は大学の職員などを巻き込む必要があったり、単純なソフトウェア開発だけでなく、生徒や職員とのコミュニケーションや擦り合わせ、大学内でのロジステティクスの構築など非ソフトウェア部分をいかに上手く設計、調整するか、というのも課題の一つです。
また、告知を出すだけで結局何も結果やプロダクトを出せずに終わるパターンもよくあるのですが、自分たちの場合は先日リリースを出した時点で実はすでにWeb5を使ったモバイルアプリのプロトタイプは出来ているので、近くそちらについてもより詳細な情報を公開できると思います。
いずれにせよまずはDIDとWeb5からですが、大学や市区町村がビットコインやライトニング関連することをやろうとしているだけでも今までとは少し違う、前進だと言えると思います。
こちらの学生証システムでちゃんと目に見える形でリリース、運用しつつ、将来的にビットコインやライトニングに繋げて行ったり、他の企業などでも似たような取り組みに発展させていくのを目指します。
Diamond Handsの運営について
また、今回の発表は「会社としての」Diamond Handsとしては初めての比較的大きな公式リリースになりましたが、Diamond Handsのコミュニティ要素も含めて今後どのように進めていくかについては、実は自分の方でも色々考えたり悩みながら試行錯誤しています。そちらについては次以降の記事で書いてみようと思います。
個人的にも元々Diamond Handsはコミュニティとしてスタートし、法人化なども最初は消極的だったのですが、現状は企業の箱を作りながらコミュニティと一緒にエコシステムを盛り上げていく形を作るのがベターだと考えており、気をつけていることや工夫していることについても共有しとこうと思います。