Diamond Hands Magazine、水曜日のビットコインニュースまとめ担当の練木です。
Twitterでご存じの方もいるかもしれませんが、先週はエルサルバドルで開催されたAdopting Bitcoinというカンファレンスに参加しました。その後、週末にグアテマラのアティトラン湖畔の街パナハッチェルに移動して、4泊5日でビットコインレイクというボトムアップ型のアダプション推進プロジェクトを視察しています。
移動、時差ボケ、イレギュラーなスケジュールで時間が取れず、先週はニュースレターをお休みしました。その間、界隈は引き続きFTXの件でてんやわんやですが、FTXの続報および当分収まりそうにない余波についてはクリプトメディアやTwitterで十分にカバーされていますし、個人的には食傷気味なため、本稿は趣向を変えて、ニュースまとめではなく、エルサルバドルでのカンファレンス関連の情報をシェアさせていただきます。
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Adopting Bitcoinとは
Adopting Bitcoinはエルサルバドルの首都サンサルバドルで去年初開催されたカンファレンスで、ビットコインをスケールしてアダプションを加速するライトニングネットワークがテーマです。
エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用した昨年は、Bukele大統領がアフターパーティを主催してビットコインシティの建設とビットコイン債券の発行を発表するなど、政権はカンファレンスを最大限利用しましたが、今回はBukele色は皆無でした。ビットコイン価格の暴落や、アダプションも債券発行もビットコインシティ建設も進んでいないこともあり、ビットコインは触れてほしくない傷になっているのかもしれません。数週間前、Bukele大統領がTwitterプロファイルからレーザーアイと#Bitcoinの文字を削除したことからも、今は静かにしていた方が得策と考えているのでは。
政権の関与の有無に関係なく、カンファレンスは大成功でした。去年の750枚から1500枚にチケット販売は倍増しましたし、現地スタッフやボランティアビットコイナーによる会場運営もスムーズ。カンファレンスには必ず登壇する定番スピーカーだけでなく、地道に手足を動かしてエコシステムに貢献している無名の登壇者も多く、好感が持てました。一方でライトニングカンファレンスなのに、CoreライトニングのBlockstreamからも、LNDのLightning Labsからも主要開発者が不参加というのは意外でした。
アジェンダ
トークの内容は結構細かい話が多かったという印象です。それなりに日々ライトニング関連情報収集に努めていても、ノードを運用していないとわからない問題、問題を部分的に解決するアプリやサービス、ルーティングの収益性分析の話は全然ついて行けませんでした。逆に、Diamond Handsで知識とスキルを蓄えているノードランナーには、知りたかった情報を一気にアップデートできる良い機会となったのでは。
細かい話以外では、ライトニング関連だとスケールしない問題、アタックベクターと対応策、プライバシー改善の取り組みなどが印象に残りました。ライトニング以外では、ホットトピックのステーブルコインの是非、RGBとTaroのバトル、遺産相続などが面白かったです。遺産相続は立ち見がでるほどの関心の高さ。ステーブルコインの是非など正解のないテーマは、定期的に議論を通じてトレードオフを認識しつつも各人自由に開発したり、批判したりで良いと思いますが、遺産相続のように正解がある問題はちゃっちゃと片付けていくべきですね。
特に印象的だったのは、スイスのルガノ市のビットコイン法定通貨化にも深く関与してるTetherとBitfines CTOであり、keetのHolepunch CSOでもあるPaolo Ardoinoです。カンファレンスのメインスポンサーとして、Tether、Keetだけでなく、ビットコインや金融システム全般についてトークやパネルディスカッションをいくつも精力的にこなしていました。界隈で今1番注目を集める人では。
個人的にベストトークを挙げるなら、Giacomo Zuccoの「ビットコイン・ペイメントプロトコルの歴史」です。ジョークを織り交ぜ、会場に爆笑の渦を起こしながらも非開発者にわかりやすい言葉で解説してくれました。ご興味があれば以下からご覧ください。1本目のトークです。
残念な点は、去年のカンファレンスでBukele大統領が打ち上げたビットコイン債券とビットコインシティの現状について一切説明がなかったことです。計画通りに進んでいないのは誰の目にも明らかなので、逃げ隠れせずに説明責任を果たした方がよっぽど政治家としての評判が上がると思うのですが。
もう1点は、ランチブレークもコーヒーブレークもなく、4会場(経済学、開発、プロダクト、ワークショップ)でセッションが同時進行したため、どこで何を見るかと常にあたふたしてしまい、気疲れしたことです。途中からは後で動画を見ればいいやとロビーやラウンジでのネットワーキングに徹しました。
あとはQ&Aの時間がなかったことです。ライブ配信でチケットを買わずにコンテンツを消費できるカンファレンスは、質問できることが参加者冥利なわけですから、しっかり時間を確保してほしかったです。
カンファレンスは3日間に渡りましたが、最終日はビットコイン・ビーチことEl Zonteに移動し、ライトニング決済を楽しみながら、サーフィン、パーティなど各々好きなことをするというフリースタイルでした。
私は運営が用意したサンサルバドルからビーチへの移動のバスでたまたま隣に座ったコロンビアのスタートアップの創業者CEOと話し込み、ビーチでアプリのデモやピッチデッキを見せてもらったり、日本から参加されたNayutaの栗元さん、マスタリング・ビットコインの今井さんとカンファレンスの感想を話し合ったりとのんびり過ごしました。
ライトニング決済
ライトニングネットワークがテーマのカンファレンスなので、もちろん会場での支払いはライトニング一択です。運営によると、サンサルバドルのホテルを会場とした2日間で計1,695トランザクション、送金額は約8,140万sats(約185万円相当)を記録したそう。平均決済額は1090円、最大が11350円、最小は23円相当とのことでした。
私もスナック、ビール、カクテルと計3回ライトニング決済しました(コーヒーは無料で飲み放題ですが、作り置きのため残念ながら味もそれなりでした。エルサルはコーヒーが特産物だけに残念)。ベンダーがGaloyのビットコインビーチウォレットを使って作成したインボイスのQRコードを、各自ウォレットでスキャンします。私はビットコインビーチウォレット、ブルーウォレットでは問題なくスムーズに決済できましたが、Muunを使った時、相手のウォレットに反映されるまで30秒ほどかかり、危うく二重支払いさせられるところでした。原因不明ですが、Muunは正確にはライトニングではないらしく、オンチェーンが絡むのであればバイナンスがUTXOを整理していた時期でmempoolが混雑していたことと関連があるのでしょうか?わかる方がいたら教えてください。
アフターパーティ
カンファレンスにはパーティがつきものです。初日は会場のホテルで、2日目は高級レストランでアフターパーティがありました。どちらもBitfinex主催です。
初日はグアテマラの取引所で、エルサルではライトニングペイメントソリューションを提供するIBEX Mercadoの幹部から裏話が聞けました。カンファレンス前にエルサル入りしたビットコイナーからスタバがライトニング決済をやめたようだというtweetが相次いでいました。スタバはIBEXのPOSを利用しています。現地の人のライトニング決済ニーズがなさすぎるので経費削減したのだろうと想像していましたが、実際にはスタバがソフトウェア更新を10ヶ月も怠った結果、意図せずPOSが使用不能になったそうです。しかも世界中からビットコイナーが押し寄せる最悪のタイミングで。急遽、グアテマラからも援軍を呼び寄せて、カンファレンス期間中に1軒1軒店舗を回ってアップデートを行ったそうです。もう、おつかれさまという言葉しか出ませんでした。
2日目は疲れも溜まっていたので、パーティーには出ず、早寝しました。
最終日はビットコインカンファレンスの名物ともいえる非公式ビーフステーキディナーに参加しました。通常、立食でいろんな人と話せるのですが、今回は巨大トマホークステーキを1人1枚という暴挙だったため、テーブルに座ってという形式でした。
運良く、個人的に今一番興味があるFediの共同創業者で、Jack DorseyとJay-Zが設立したビットコインNPO₿trustのボードメンバーでもあるObi Nwosuの前の席をゲットし、開発中のFediアプリを見せてもらいました。Obi的には一番こだわったのはバックアップ方法とのこと。確かに斬新でした。来年早々にもベータ運用開始予定のようなので、非常に楽しみです。
他にも、ナイジェリアの取引所Bitnobの開発責任者や、アフリカでスマホを持たない人たちのために、インターネットに接続できなくてもSMSでトランザクションをブロードキャスト可能にしたMachankuraの開発者、前Umbrel現Start9のOS開発者など、かなりテッキーな人たちに囲まれて、ここぞとばかりにいろいろ質問しまくった楽しい夜となりました。
にしても、みんなよく食べます。私が2/3以上残したステーキを、自分の分を完食してもまだ足りないという2人が平らげ、しかも同じテーブルの私以外の全員がバニラアイスのせブラウニーを注文するという。見てるだけで胃もたれしました。
以上、かなり緩いAdopting Bitcoinカンファレンス報告でした。
エルサルの後に訪問したグアテマラのビットコイン・レイクも、多くの発見と気づきがあったので、機会があれば、どこかでシェアしたいです。ライトニング決済はこの2年でかなりUXが改善しましたが、実際に日々使われている現場では、まだまだ改善の余地が大きいというのが一番大きな学びでした。
来週からは通常のニュースまとめに戻りますので、引き続きご購読いただければ幸いです。
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