ビットコインは「金融の外側」で何を変えるのか──エネルギーインフラと自由の未来【後編】
ビットコインマイニングは、
他のユーティリティ用途と電力獲得競争をするべきではありません。
むしろ、
“余剰電力”や“変動する電力”、
“誰も使っていない電力”を吸収する“縁の下の存在”
であるべきです。
この観点から見ると、
これから多くのマイニング事業者が苦しむことになるでしょう。
そして、これこそが
「ハッシュレートの再編(コンソリデーション)」が
起きる理由の一つになるはずです。
こんにちは!yutaro です。本日のPro向け「BTCインサイト」では、
Bitcoin Corporate Day (The Day Before BTC Prague) での最終パネルディスカッションで議論された「インフラとしてのビットコイン」の後編について取り上げます。
(※前編はコチラ)
「マイナーはオン・オフできるが、本当に効率的なのか?」という疑問
ー Sam Roberts
Harald、Alex──ここで“部屋の中の象”について触れたいのですが、
ビットコインマイナーはオン・オフが可能だと言われていますよね。
しかし実際には「ずっと稼働し続けた方が、効率も収益性も高い」のでは?
それからもう一つ。
最近では AI 企業がデータセンターを建設するために
電力会社に非常に強い需要を示しています。
Core Scientific や Riot など、
大規模マイナーがAI向け事業にピボットする動きも見られます。
すでに市場にもそうした兆候がありますが、
この問題をどう見ていますか?
AI企業は“持ち運べない”。だがマイナーは「どこへでも行ける」
ー Alex Pilař
この質問は本当によく受けます。
いつも同じ答えになるのですが──
もし、誰かが“良いアイデア”や“役立つデータセンター用途”を持っているなら、
その「良いもの」をコンテナに詰めて砂漠へ持ってきてください。
そこには電力があります。
私たちは、マイナーと同じように接続します。
でも、誰一人として来ないんですよ。
これが現実です。
AIは“完全なデータセンター”です。
そんなものを砂漠の真ん中に置いて、
適切にメンテナンスすることなんてできません。
一方で、ビットコインマイニングは非常に「原始的」なエンジンです。
・高度なデータセンターインフラも不要
・ファイアウォール不要
・ストレージも不要
・必要なのは「電力」と「排熱処理」だけ
要するに、
「電源に挿して、抜くだけ」 です。
メンテナンスもスクリュードライバー一本あればできる。
だから、もし誰かが
「電力さえあれば動く何か」を持ってきたいと言うなら、
いつでもウェルカムです。
コンテナを持ってきて、ケーブルを挿せばいい。
でも、誰も来ません。
来た試しがないのです。
ベースロード電力がある場所では“競合”が起き始める
ー Harald Rauter
補足させてください。
あなたの指摘は、非常に正当だと思います。そして重要です。
ただ、それが本当に問題になるのは──
「ベースロード電力(常に供給される電力)」
が存在する場所のマイニング事業だけです。
アメリカには、この“ベースロード型”の巨大マイニングが多い。
電力会社とギガワット単位の長期PPAを結んでいるような事業です。
しかし、ヨーロッパの状況はまったく違います。
ヨーロッパでは、アメリカで見られるような
超大型のPPA(電力購入契約)はほぼ存在しません。
ここで、短期的に──
(短期といっても何年のことか、誰にもわかりませんが)
ビットコインマイニングは大きなプレッシャーに直面します。
なぜなら、
PPAの更新が行われなくなるからです。
そして、その電力は
より高い価値を生む用途──
つまり AI/HPC向けデータセンター に向かうことになる。
ただし、私はこれは“正しい姿”だと思います。
ビットコインマイニングは、
他のユーティリティ用途と電力獲得競争をするべきではありません。
むしろ、
“余剰電力”や“変動する電力”、
“誰も使っていない電力”を吸収する“縁の下の存在”
であるべきです。
この観点から見ると、
これから多くのマイニング事業者が苦しむことになるでしょう。
そして、これこそが
「ハッシュレートの再編(コンソリデーション)」が
起きる理由の一つになるはずです。
今こそ“電力裁定(アービトラージ)型マイニング”の時代
ー Harald Rauter
これがまさに、私が「電力アービトラージ型マイニング」に
大きな未来があると考える理由です。
例を挙げましょう。
グリッドの需給調整のために
「余剰電力を吸収する」サービスを提供する場合、
稼働時間は平均して 1日5〜10分程度 です。
そのわずかな稼働時間で
事業者は報酬を受け取ることができます。
・予備容量(リザーブキャパシティ)の提供
・実際に吸収した電力量
これらの支払いはすべて“フィアット建て”でもらえます。
つまり──
格安の中古S9(1台3ユーロでも買える)で十分に利益が出る。
これは一つの例に過ぎませんが、
こうした「複数の収益源を重ねる」タイプのマイニングが
これから主流になっていくはずです。
そしてこれは、
ビットコインベースの収益 + フィアットベースの収益 + 排熱利用(ヒートリユース)
といった複数の収益がある形。
こうしたマイニングこそ
ハッシュレートが下落しても、ビットコインが弱気でも、
ビジネスとして生き残れる“レジリエント・ハッシュレート”です。
ヨーロッパには、このモデルが非常にフィットします。
なぜならヨーロッパには──
・余剰電力
・変動性の高い電力
・グリッドの混雑
・未利用のインフラ
といった要素が大量にあるからです。
そのため、ヨーロッパにおけるマイニングは
数量的には小規模でも、
質的には極めて強靭(レジリエント)なハッシュレートになる
と考えています。
そして私は、それを
「ヨーロッパのマイニングに対する強気材料(ブルケース)」と見ています。
マイニングには「3種類の安定モデル」しか存在しない
ー Alex Pilař
一つ付け加えると、ビットコインをマイニングする方法には安定した3つの形態しかないと僕は思っています。
1つ目は グリッド(電力網)に完全統合される形。
需要側として機能し、需要調整に協力し、必要に応じてオンオフを切り替える。
その貢献に対して正当に報酬を受け取る。これが完全統合型です。
2つ目は アイランドモード。
発電設備を、エネルギーが取り残されて使われていない場所に直接つくる。
余剰で利用不能な電力をそのままマイニングに使う形で、これは安定しています。
3つ目は マイクログリッドやヒーティング用途など、
ごく小規模で電力網に接続する形。
サブスケール(ごく小さい)マイニングです。
この3つ“の間”にあるものは全部同じ運命をたどります。
つまり、パニックに陥り、逃げ出し、別の場所へ移動するという流れです。
パラグアイからエチオピアへ移動し、
そのエチオピアから別の国へ移動していく例を僕らは見てきました。
延々と続いています。
人々は非常に平坦な学習曲線しか持たないようです。
だから、
・グリッドに法的に統合され、需要調整契約を持っているなら“良い”。
・孤立し、グリッドから完全に切り離されているなら“良い”。
・あるいは小規模に再エネと統合しているなら“良い”。
しかし、その他の中途半端なグレーゾーンは本当に危険で、
そこに手を出して多くの人が大金を失っています。
業界はこうした影の領域から成長して抜け出し、成熟するべきだと僕は思います。
人間の自由と政治環境についての質問
ー Sam Roberts
残り4分半なので、2つの質問をなんとか押し込みます。
短めの回答でお願いします。
まず1つ目は人間の自由についてです。
僕はイギリスに住んでいて多少バイアスがあるかもしれませんが、
今の政治環境はかなり“難しい局面”にある気がします。
そこで質問です。
今後数年で起きうる政治環境の変化に対し、
ビットコインはどう役立つと思いますか?
英国に限らず、世界全体で。
誰から始めますか?
ビットコインとフリーダムテック
ー Alex Pilař
自由こそ、ビットコインに僕が最初から興奮していた理由の1つです。
ビットコインが与えてくれる自由です。
英国の状況やそれ以外をズームインして見ると、
ビットコインは今日「フリーダムテック」と呼ばれる領域の
インスピレーションになったと思います。
プライバシーを守り、自由を保護するテクノロジーです。
ほんの3〜4週間前、
世界で初めて、オープンソースで監査可能なセキュアエレメントチップを内蔵した
コンシューマー向け電子製品が市場に登場しました。
スマホにも入っていますよね。
パスワードやバイオメトリクスが保存される場所です。
これは大きな前進でした。
ハードからソフトまでフルスタックで、
オープンソース、監査可能、バックドアなし。
ユーザーが自分の安全性を検証できる初めての製品なんです。
さて、4週間前に世界市場で初登場したその製品は何でしょう?
誰か分かりますか?
そう、Trezor Safe 7です。
Tropic Square のオープンソースのチップを内蔵した
世界初のハードウェアウォレットです。
地球上でほかに生産しているところはありません。
ビットコインの発明、
そしてオープンソース・分散化・サードパーティ排除・パーミッションレスという
その思想はハードウェア層へ広く広がっています。
Nostr、Mastodon のような
検閲できないネットワークもあります。
だから僕はとても楽観的なんです。
ビットコインの元々の精神が広がり続けているから。
そこら辺に Honza がいるはずです。
Tropic Square の CEO。
世界初のオープンソース監査可能チップを作った人物です。
繰り返しになりますが重要だから何度でも言います。
僕らはプライバシーを守れる技術を作り、
英国や他の国で起きていることに対抗できるチャンスを得ている。
ー Sam Roberts
セルフカストディもその重要な一部になるでしょう。
ビットコインが国家を改善できる可能性
ー Michael Howe
楽観的な考えはあるんですが、
現実的には“かなり起こりにくい”と思っています。
英国、そして西側世界の多くがそうですが、
最近のインフレは極端でしたよね。
法定通貨の価値毀損に対して、
ビットコインは確かに防御手段になります。
僕自身、生活が明るく感じられるくらいには助けられています。
そして政府について考えると、
英国政府には程遠い未来の話ですが、
ビットコインの戦略的備蓄というアイデアもあります。
英国と西側諸国は、
債務まみれで、
支出にも税収にも苦しんでいます。
だから、5年前に戻って
「もし国家がビットコイン備蓄を持っていたら?」
と想像するだけで、その有益さが分かる。
もちろん、
最良の“戦略的備蓄”は
個人・企業・慈善団体などに分散している形ですが、
政府がビットコインを理解するきっかけにはなるでしょう。
ビットコインでも修復できない“たった1つの問題”
ー Sam Roberts
では最後の質問に行きます。
ビットコインは多くの問題を“直せる”と言われます。
特に基盤レベルの問題や、
そのインセンティブ構造が生み出す良い変化など。
ですが──
ビットコインが“直せない問題”が1つだけあるとしたら?
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